話は昨年にさかのぼる。
アイルランド固有のパーカッション、バウロンの制作者・マラキーカーンズ氏と何度かメールのやりとりして昨年のアイルランド帰省するさい、お会いしてお話を伺うはずだった。
しかし、ある重要なイベントがおしてしまい、彼のホームであるアイルランド:ラウンドストーンへお伺いする時間がどうしても都合つかず断念し帰国した。
そして、今年初め「春にアイルランドに帰省します」とフェイスブックで報告した瞬間、イの一番で「お会いしたいね」とメールを下さったのがマラキーカーンズ氏であった。
バウロンといってもピンとくる方がどれだけいるのだろうか?
バウロンとは山羊などの動物の皮を張った片面のハンドドラム。
マラキーカーンズは、この道の第一人者である。
ふくよかな体型にえびす顔な風貌であるが、彼のバウロンが生み出す魂のサウンドには、実は多くの日本人が触れている。
一番わかりやすい事例は、映画『タイタニック』の三等船室でのパーティーシーン。
この音楽を担当し衝撃的なデビューを飾ったゲーリックストームというバンド。彼らが使ったのが、このえびす顔のマラキー氏のバウロンだ。
もっと言えば世界中で500万人以上を動員しているリバーダンスでもマラキー氏がつくったバウロンが使用されている。
30年前、バウロンを作り出す前マラキーは会社員だったそうだ。
しかし仕事のストレスからなんと“アル中”状態だったという。
人生のどん底を味わった男を救ったのはバウロンの出会いであったという。
丁度、今回私が彼と話しているとき、チーフタンズのバウロン奏者であるケヴィン・コーネフ から連絡があり、何かと思ったらマラキー氏のお子様にバウロンを教えていてよくここにくるのだという。「一緒に練習するかい?」」と満面の笑みで語るマラキー氏の表情からは、私欲とはかけ離れた純粋な愛を私は感じた。
是非素敵なチーフタンズの先生の講習を受けたかったのだが、スケジュールの都合上断念。
もっともバウロンを伝統音楽の楽器としてフィーチャーしたルーツがチーフタンズファンならご存知であろう、クラシックのショーン・オ・リアダ。RTEからアビーシアターの音楽監督へ、キョールトリ・クーランというアイリッシュトラッドグループの誕生から「アイルランドの音楽大使」チーフタンズへの昇華・・・そう、バウロンとチーフタンズの結びつきは深い。
さらにルーツに関してマラキー氏が言うには「バウロンの起源はよくわかっていないと言われるけど、聖パトリックがアイルランドにやってきてキリスト教化するまえからあったと思うよ。もっと土着でアイルランド本来の匂いがするんだ。アイルランドはどうすることもできない,つらく,悲しいことが多すぎた。だから人々はバウロンの音色を聴くと狂ったように騒ぎ踊り出す。天気はどんよりでも音楽が人々に生きる力を与えた、そうバウロンも音楽もアイルランドの宝なのかもね」と。
彼がバウロンを制作するうえで重要視していることの一つがケルティックデザインだ。
十字の横線は地上世界への導線、縦線は霊性的世界への導線、円形は永遠の神の愛をさしている。
人間の魂を解き放つバウロン~マスター・オブ・バウロン~マラキー氏の天職である。
彼の今後の人生への祝福を願い、そしてこれからも親交を深めることを約束しあい、ラウンドストーンを後にした。